未来を語る:クリス・ニネスと宮城県の養殖場の人々、東日本大震災から12年後の対話
10月 31, 2023
ASCのCEO、クリス・ニネスが来日し、宮城の養殖場3カ所、ギンザケの株式会社マルキン・カキの宮城県漁協石巻地区支所・ワカメの宮城県漁協北上町十三浜支所青年部グループを視察しました。
まず訪れたのが、ギンザケの株式会社マルキン(以下マルキン)の鈴木真悟氏。マルキンは、1977年に日本で初めてとなる銀鮭の養殖を開始しました。祖父の時代から45年以上にわたり「銀鮭養殖のパイオニア」として生産を続けています。また協働していた商社を経由して銀鮭の養殖技術がチリに渡ったとのこと、世界の養殖銀鮭の普及に多大なる貢献をしている企業と言えます。
マルキンはUMITOパートナーズなどと共に養殖場改善プロジェクト(AIP)を経て2020年にASC認証を取得しました。基準の中には環境と社会面に対するさまざまな要件がありますが、日本国内では、サケジラミの被害がないため、また天然の鮭においてもほとんどサケジラミが確認されないなど、国内の状況が世界のサーモン養殖の現場と大きく異なる点をどのように国際基準として扱うべきなのかとう課題について議論を行いました。ASC認証を取得したことによる利点として、SDGsへの認知度の高まりもあってか、問い合わせが増加していることを喜ばしく感じているそうです。また鈴木氏は、クリスが語ったCoC認証をさらに補足強化するデジタルトレーサビリティが今後導入されることを期待しました。国際認証制度としていかに厳格性を確保しかつ地域の特性を考慮して養殖場での普及を促進するかというバランスが重要であると再認識しました。
次に宮城県漁協石巻地区支所のカキ養殖場を漁船で沖に出ました。東日本大震災で被災し、その復興の中でASC認証を日本で初めて取得した、宮城県漁協志津川支所戸倉出張所に続き、2018年に石巻地区の3支所が連携してASC認証を取得しました。ここで生産されるカキは、宮城県産カキの約6割に相当します。被災地の海から、世界にその環境配慮を認められた養殖が、大きく広がり始めています。
今年は海水温度が高く、30°C近い日もあり牡蠣の成長が遅く、例年より収穫の開始が約1ヶ月先延ばしになっていました。またこの海域では磯焼けが進んでいる課題もあり、宮城県漁協とフィッシャーマンジャパンで藻場の再生を目指す「ISOPプロジェクト」を立ち上げて取り組みをしています。https://fishermanjapan.com/project/isop-ishinomaki-save-the-ocean-project/
また、地域の牡蠣加工業を営む企業の組織と連携して、牡蠣の殻の処理費として資金の積み立てを行い、そこから養殖場の審査費用などを共同で負担する制度を構築しているとのことです。
宮城県漁協北上町十三浜支所青年部グループは、宮城県石巻市北上町十三浜においてワカメとコンブの養殖を行っている19人の生産者の集団です。2011年の東日本大震災で大津波が養殖施設を壊しましたが、青年部グループの生産者とその家族は協力して困難を克服し、現在は三代目の世代が養殖事業を続けています。
青年部のメンバーが提起した、西洋の市場動向についての質問に対して、クリスは東アジアの国々と比較するとワカメがまだマーケットであまり知られていないことを指摘し、現在はアジア系のスーパーマーケットや飲食店を中心に販売されていると述べました。将来的には輸出を考える場合、ASC認証ワカメにいかに付加価値をつけた食材として(例えばサステナブルに加えてオーガニックなど)位置づけたり、その栄養価の利点を強調するなどの戦略が必要だろうとのことです。
初対面の3団体と交流しながら、クリスは多くの質問に受けました。その中で関心が高かったのは、なぜ日本においてASCの認知度がまだ低いのかという問いです。クリスは、日本においてサステナビリティの意識がまだヨーロッパに比べて低いこと、また、日本の魚種の多様性から、ASC認証を取得するハードルがまだ高いことが要因であると指摘しました。
クリスは日本の養殖場の様子を興味津々に視察し、今後の日本のASC認知度の向上を願っています。