
新しい飼料基準で養殖業界の抱える重要な課題に取り組む
水産養殖飼料サプライチェーンにおける持続可能性の配慮が十分でない取り組みにより、養殖産業の成長と貢献を阻害する危険性があります。ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)は、この問題に取り組むための「飼料基準」を本日発表します。
これは、飼料メーカー、小売業者、NGO、養殖業者、その他のステークホルダーからなる多様な専門家グループが長年にわたり策定に尽力してきた成果です。この基準では、飼料工場が厳しい環境的・社会的要件を満たすことを求めています。すなわち、社会的責任のあるサプライヤーから環境に配慮した原料を調達・使用します。そうすることで、サプライチェーンと原料、双方の問題に対処していきます。また、実績の報告を求める事項により、業界の透明性を向上させ、環境的持続可能性を評価し、信頼される飼料に関する今後の研究を支援します。
今後14ヶ月間は本基準の「準備期間」となります。この期間に、審査員、飼料メーカーおよびそのサプライヤーは基準に精通し、認証に向けた準備が可能です。その後、本基準は2022年9月1日に発効し、飼料工場の認証が始まります。養殖場は24か月の移行期間内にASC認証対応の飼料に切り替えることで、ASC養殖場基準を引き続き満たすことができます。

Netflixの映画「Seaspiracy」を受けて、養殖場で使用される水産原料の影響について多くの議論がなされています。ASCの飼料基準では、認証を受けた養殖場に対し、環境に配慮した持続可能な原料の調達について、より積極的であることを求めています。実際のところ、海産由来の原料の使用の割合は減少傾向にあり世界の水産飼料原料の約75%は大豆、小麦、米などの農作物に由来しています。これらの作物には、森林破壊や土地転換などの影響があります、水産業界の議論では見落とされがちです。
ASCのCEOであるChris Ninnesは次のように述べています。「水産養殖は、すでに世界中の水産物消費量の半分以上を供給し、何百万人もの人々に生活の糧を提供しています。カーボンフットプリントを低く抑えつつ、増加する世界人口の食料を賄うことは、水産養殖なくしてはできないのです。しかし水産業界で使用する飼料を責任を持って調達しない限り、持続可能な養殖業とは成り得ません。ASCは過去10年にわたり、生産者に対し養殖場からの環境と社会負荷の軽減にインセンティブを与えてきました。そして今私たちは、このアプローチをより広いサプライチェーンに広げようとしています」
「海産由来の飼料原料は養殖魚に必要な栄養素を供給する重要な役割を担っていますが、他のすべてのものと同様に、責任を持って調達・使用する必要があります。ASC飼料基準は、原料を別のもので代替することを推進するものではありません。海産および植物由来など全ての原料に利点並びに課題があるため、総合的に対処すべきであることを認識しています」
また、「多くの生産者や飼料メーカーがすでにこの問題に真剣に取り組んでいます。私たちは、業界の評価への最大の脅威に取り組むため、これら関係者の取り組みを報いるとともに、他の企業が追随する動機付けをしたいと考えています。この基準は、多様な利害関係者で構成される運営委員会の活動と専門知識なしには策定できませんでした。業界全体にとって重要な節目に貢献してくれた委員会のメンバーに感謝したいと思います」と述べています。
責任ある水産養殖に向けたASC アプローチの拡大
飼料基準は、責任ある水産養殖に対するASCのアプローチを、水産飼料を製造する飼料工場およびその原料のサプライヤーにまで拡大したものです。これらの工場は、基準に照らし審査される対象となりますが、これら飼料工場と養殖場には、そのサプライチェーンがASCの要求を満たすための移行期間が与えられます。本基準により、ASC養殖場からの需要増加に対応すべく、多くの飼料工場が認証取得に向けて取り組む動機付けになることを期待しています。
環境面での持続可能性だけでなく、飼料工場は自社とそのサプライヤーが社会的責任を果たしていることも保証しなければなりません。例えば、独立した審査員は、工場が強制労働や児童労働を行っていないこと、従業員に公正な給与を支払っていること、いかなる理由による差別がないことを確認する必要があります。また、地域社会と積極的にコミュニケーションを図るなど、信頼される隣人であることも求められます。認証を受けた飼料工場は、こうした問題がより拡大しているリスクのある地域への影響を確認して原則を遵守するため、サプライチェーンのデューデリジェンスが求められます。
タンパク質の供給源として、水産養殖はCO2排出量が最も少ない方法のひとつですが、業界でサプライチェーン全体を監視し、排出量の削減に努めることが重要です。ASC認証飼料工場は、エネルギー使用量と温室効果ガス排出量を記録・報告し、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの使用、水使用量の改善に努めなければなりません。
また、飼料基準では水産原料の改善モデルを採用。飼料工場に対し、より持続可能な漁業からの調達を求めています。ISEALの正会員であるMarinTrustとMSCは、この仕組みにおける重要な役割を果たしており、改善のための重要な足がかりを提供しています。中間ステップとして代表的には、各認証制度に至るまでのFIPプログラムが知られています。
このモデルでは、飼料工場が魚粉や魚油のサプライヤーと協力し、徐々に増加していく要求を満たすための段階的向上の仕組みを提供します。最終的には、水産原料の大部分をMSC漁業から調達する必要があります。
植物由来の原料についても、海産原料と同様に、飼料の1%を超える全ての原料を記録・報告し、責任を持って調達していることの確認手順を踏む必要があります。重要なのは、特定の原料が森林破壊や土地転換につながるリスクを評価し、こうした大きな悪影響のないサプライチェーンへの移行に取り組むことです。
次のステップ
ASCは、ASC養殖場基準の認証認定要件(CAR)と同様に、本基準の実施方法に関する明確なガイダンスを提供するため、審査員と飼料工場向けに追加文書を提供する予定です。また、ASCは飼料工場と協力して、これらの文書が実際の現場で適切であることを確認し、審査プロセスを可能な限り効率化する方法を検討しています。
準備期間中にはこのガイダンスと並行して、利害関係者が詳細を知り、質問するためのワークショップを開催します。世界中のASCスタッフは、さまざまな分野の利害関係者に、新基準の利点や要件、そしてどのような影響があるのかを説明します。